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プロジェクト MARCH、脊髄損傷を抱えた人たちの移動を支援する外骨格ロボットを製作

背景

世界全体で、毎年 25 万~50 万人が、脊髄損傷を負っている。脊髄を損傷すると、下肢の麻痺 (パラプレジア) や全身の麻痺 (四肢麻痺) を伴うのが典型的であり、多くの場合、車いすを使って移動することになる。

オランダの Delft University of Technology の学生で構成されるプロジェクト MARCH。この学際チームは、脊髄損傷を負った人が立ち上がって歩けるようにする高度な外骨格ロボットのプロトタイプを開発および製作することを目標に掲げ、活動している。

加えて、4 年ごとに開催されるバイオニック (身体機能を機械的に強化した) パラアスリート向け競技会「サイバスロン」と、そこから派生して毎年開催されている小規模イベント「サイバスロンエクスペリエンス」に出場している。いずれも、身体障碍者の日常生活を改善するために、義肢や高性能車いす、外骨格テクノロジーの開発を加速させることを目的とする国際大会である。

プロジェクト MARCH の共同代表であり、広報も務める Martine Keulen 氏は、次のように説明する。「毎年、学生による新しい学際チームが、大学を 1 年間休学して、独自の外骨格ロボットのプロトタイプを設計します。この作業は、「パイロット」と呼ばれる、脊髄の完全損傷を負った (パラプレジアの) 人と共同で行い、パイロットがそのロボットを操作します。パイロットは車いす利用者ですが、このロボットを装着して操作すると、立ち上がって歩き、他の障害物を乗り越えることができるのです。

サイバスロンは、専門的な支援デバイスを使用するパラアスリートの大会です。出場選手は、電動車いすレースやマインドコントロール競技などの種目で競い合います。私たち (プロジェクト MARCH) は、6 個の障害物が並んだコースで行われる電動外骨格レースに出場しています。次々に現れる障害物を、10 分以内でできるだけ速く乗り越えなければなりません」

レニショーとその関連会社である RLS は、プロジェクト MARCH チームが発足した 2015 年からのスポンサーであり、関節モータの位置決めフィードバックを行う RLS 磁気式エンコーダを提供している。

スタートラインについているプロジェクト MARCH 開発の IVc 外骨格ロボットと従来型の車いす

スタートラインについているプロジェクト MARCH 開発の IVc 外骨格ロボットと従来型の車いす

課題

外骨格ロボットは、人々の移動を支援するために設計されたものである。身体に密着するため、その性能を左右する要因は、人と機械の間の力の伝達をはじめ、機械的構造、アクチュエータ、フィードバックデバイスなど多岐にわたる。

このような複雑なシステムの制御則を考案するのは簡単ではない。このケースでは、パイロットと外骨格ロボットで構成されるクローズドループシステムを用いて、コントローラが生成した関節基準軌跡を追跡する。プロジェクト MARCH はまず、標準的な比例積分微分 (PID) コントローラを試してみた。2019/2020 年チームの Embedded Systems Engineer だった Björn Minderman 氏は、次のように説明する。

「私たちの年は当初、標準的な PID コントローラを使って関節の位置を制御していましたが、望むような結果が得られませんでした。そこで、制御エンジニアたちがトルクベースの制御に切り替えることにしたのです。この制御で難しいのは、歩行パターンや足取りに合わせて、PID コントローラのチューニングを変える必要があるということです。例えば、階段を上るときには、大きなトルクを出力する必要があるため、しっかりしたサーボ制御と高い P (比例) 値が必要です。それに対し、ソファーに腰掛けるときには、コントローラの P 値が高いとシステムが不安定になります。これが難題なのです」

外骨格パイロットは、タスクごとに必要な動きのタイプを、クラッチに組み込まれたヒューマンマシンインターフェース (HMI) を介して事前に選択しておく必要がある。これらの動きパターンは、(チームの運動エンジニアによって) オフラインで作成され、障害物ごとにカスタマイズされる。パイロットの安定性と安全性を確保するためには、関節の角度を正確に制御する必要があり、その制御は、高品質なロータリエンコーダからの位置決めフィードバックを使用することで実現する。

「もうひとつの課題は、モータの近くで計測すると、時として電気ノイズが発生してしまうということです。外骨格ロボットで使用されているモータが電子部品に近づくと、強い磁界が発生してしまうのです。電子部品の近くにワイヤがあると、場合によっては信号ノイズが発生します。エンコーダから CPU に、データをロスせず確実に転送することが課題でした」と、Minderman 氏は付け加えた。

解決策

サイバスロン 2020 に参加したプロジェクト MARCH

サイバスロン 2020 に参加したプロジェクト MARCH

2020 年 8 月、チームは「MARCH IVc」を完成させた。臀部と膝に 2 箇所の回転関節、臀部と足首に 4 箇所の直線関節 (リニアロータリジョイント) を用いた最新の外骨格ロボットである。電動関節の組合せによって人間の筋骨格系が再現され、自由度の高い高度な歩行動作が実現した。

Minderman 氏は、このシステムで位置決めエンコーダが果たした役割の大きさを強調する。

「この外骨格ロボットには 8 箇所の関節を設けました。両足首に 1 箇所ずつ、両膝にも 1 箇所ずつ、そして両臀部に 2 箇所ずつです。それぞれの関節で、2 個のエンコーダを使用しています。そして回転した関節モータの力が、減速ギヤを通じて関節角度へと変換されます。関節角度はアブソリュートエンコーダで直接測定しているので、キャリブレーションを行わなくても、起動時には必ず関節の位置を把握できます。それぞれの関節が正しい位置にあり、運動エンジニアが設計した軌跡をたどらせることが不可欠です。

モータには、別のエンコーダも装着してあります。関節よりもモータのほうが高速で回転するため、エンコーダの高い分解能は制御に好都合なのです。モータ側のエンコーダを制御ループで主に使用し、関節側のエンコーダは、予備の安全対策として使用します。エンコーダの分解能は、制御の大事な要素です。実は以前、位置情報からの回転数計算に問題を抱えていました。エンコーダの信号を微分するので、位置測定誤差を増幅することになります。だからこそ、高い分解能が必須なのです」

MARCH IVc には、高分解能 (17bit) の AksIM‑2 アブソリュートエンコーダと、直線関節フィードバックを提供する RM08 アブソリュートエンコーダが組み込まれている。

レニショーと RLS の両社は、いらないものを売りつけるのではなく、本当に必要なものが何か、そしてどうすれば私たちの役に立てるかを考えてくださったのです。私にとっては、プロジェクトに寄せてくださったその関心の高さこそが、今回の提携の成功要因です。

プロジェクト MARCH (オランダ)

結果

レニショーと RLS による継続的な支援を受けたプロジェクト MARCH チームは、新たな可能性を切り開く、外骨格ロボットのプロトタイプを製作することができた。この画期的なテクノロジーは、サイバスロン 2024 に向けた準備の過程でどのように進化していくのだろう。

「その頃までには、クラッチを使わずに外骨格ロボットのバランスをとることに着手していたいと考えています。つまり、階段などの障害物を外骨格が自律的に検出し、さらにはその高さを測定して歩行の足取りを調節できるようにする別の入力形態を探すということです。個人的には楽しくチャレンジできそうな難題ですが、毎年新しいプロジェクト MARCH チームが組まれますから、どのように展開していくかは、そのチーム次第です。どこまで行けるのかわかりませんが、私たちの目標ですから、できるだけ大きく進歩したいですね」と Minderman 氏は言う。

RLS とレニショーは、顧客と直接協力し合い、顧客の用途に最適な測定ソリューションを提供している。この点について、Keulen 氏は次のように述べている。

「年頭に、レニショー社のセールスエンジニアである Rene Van der Slot 氏と、Björn をはじめとするプロジェクト MARCH チーム電気部門のメンバーを交えて打ち合わせを行いました。Rene 氏は、エンコーダを持ってきて、『これとか、あれを使ったらいいよ』などと言うのではなく、私たちの用途について思考を巡らし、外骨格が動作する仕組みや、私たちに必要なものを尋ねてくれました。つまり、レニショーと RLS の両社は、いらないものを売りつけるのではなく、本当に必要なものが何か、そしてどうすれば私たちの役に立てるかを考えてくださったのです。私にとっては、プロジェクトに寄せてくださったその関心の高さこそが、今回の提携の成功要因です。レニショーと RLS はエンコーダだけを考えるのではなく、設計の全体像と、そこにエンコーダをフィットさせる方法まで考えてくださるのです」

レニショーと RLS、そしてプロジェクト MARCH の連携が上手く行ったことを受けて、プロジェクト MARCH チームが、オランダで行われた展示会「Precisiebeurs 2019」のレニショーブースに登場し、旧式の外骨格ロボットのプロトタイプを使って、RLS 磁気式エンコーダを実際に応用した様子を紹介した。

レニショーと RLS は、自ら支援したプロジェクト MARCH チームがいつの日かサイバスロンで優勝するのを心待ちにしている。テクノロジーは進化する。外骨格をはじめとするロボットスーツは、何百万人という身体障碍者の生活を一変させるだろう。

March IV のレンダリング画像

March IV のレンダリング画像

プロジェクト MARCH について

プロジェクト MARCH は、オランダの Delft University of Technology の学生有志によるチームである。脊髄損傷を負った人が立ち上がって歩けるようにする画期的で万能な外骨格の開発に取り組んでいる。6 代目となる現チームは 26 人の学生で構成されており、旧モデルを基に改良を続けている。

プロジェクト MARCH は、サイバスロンという、世界各地の大学および民間のチームを代表するバイオニックパラアスリートの大会に毎年参加している。

プロジェクト MARCH (2019/2020) の Björn Minderman 氏

2019/2020 年チームで組込みシステムエンジニアだった Björn Minderman 氏

プロジェクト MARCH 2019/2020 の Martine Keulen 氏

プロジェクト MARCH の共同代表兼広報担当の Martine Keulen 氏

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動画提供: プロジェクト MARCH