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ラマン分光の限界の克服

質の高いラマンデータは、シンプルな手法を用いるだけで大きく向上させることができます。感度や空間分解能の強化には SERS や TERS が効果的です。

ラマン分光は、化学特性や構造特性を分析するための汎用的な技術です。課題や短所、そしてそれらに対する対処法についてご紹介します。また空間分解能に影響を与える要素についても本ページでは論じます。ナノメートルレベルの空間分解能を達成するには、チップ増強ラマン分光測定 (TERS) が有効です。

ラマン分析の課題と検討事項

ラマン分光にはメリットが多数ありますが、同時に課題もあります。ラマン分光装置を扱ううえで避けられない、普遍的な課題です。レニショーでは以下のような使い方や対策をご提案しております。

1. ラマンスペクトルが弱い
レニショーのラマンシステムでは、高効率な光学設計と超高感度検出器を採用しています。

2. 蛍光バックグラウンドが強く、ラマンバンドが隠れてしまう
マルチレーザーのシステムを使用することで、励起レーザー波長を切り替えます。例えば可視光から近赤外線レーザー (785nm など) に切り替えることで、たいていは蛍光を抑えられます。はっきりしたラマンスペクトルが生成しやすくなります。

3. サンプルの表面に凹凸が多い
凹凸があるサンプルのラマンイメージングは以前は簡単ではありませんでした。ですが、レニショーのラマンマイクロスコープは LiveTrack ライブフォーカストラッキングにより、データ収集中にフォーカスを自動で維持します。サンプルの領域ごとの化学構成や構造を簡単に調べることができます。

4. ガラス容器やスライドでサンプルのラマンバンドが隠れてしまう
a. ガラススライドではなく、ステンレススチールのスライドを使用します。
b. 生体細胞の場合は、鏡面研磨ステンレススチール (CaF2 MgF2) のスライドを使用します。
c. 通常のガラス容器の代わりに石英ガラス容器を使用します (石英ガラスのほうが、785nm でのバックグラウンドが弱くなります)。

5. 容器や基板がスペクトルに影響を及ぼす
inVia™ コンフォーカルラマンマイクロスコープVirsa™ ファイバーラマン装置では共焦点性の調整が可能です。開口数の大きい対物レンズと共焦点性の高い装置設定を組み合わせることで、測定領域を絞ることができます。絞ることで、基板や容器からの不要なバックグラウンドを弱めることができます。

透明な容器に入ったバルクサンプルを分析する際は、開口数の小さいレンズが有効なことがあります。対象とするサンプルからのラマン信号を最大化でき、容器のスペクトルへの影響を最小限に抑えられます。

6. レーザーの高出力でサンプルが損傷するおそれがある
レニショーでは、ラマン散乱の生成にレーザーを使用しています。ラマン信号はレーザーの出力に応じて増減するため、通常は出力を上げると信号も強くなります。
ただし、各サンプルには、レーザー出力によって化学特性や構造が変化してしまう、しきい値が存在します。対策としては以下が考えられます。
a. 高感度のラマン分光器 (レーザー出力が低くても、強いラマン信号を生成できます)。
b. レーザー出力はソフトウェアでコントロールし、再現性があるため、サンプルを変化させずに測定できます。
c. ラインフォーカスモードでレーザーを広域に照射します。inVia マイクロスコープRA802 製薬用分析装置RA816 生物学用分析装置で対応しています。

7. WiRE™ ソフトウェアによる自動宇宙線除去
宇宙線とは、地球外から高エネルギー粒子です。データ収集中に検出器が宇宙線の影響を受けると、スペクトルに高密度なスパイクが現れます。ラマンイメージが大きくなると、数千もの宇宙線の形跡が見られることも少なくありません。

WiRE ソフトウェアでは、大きなラマンイメージ (5000 万スペクトルまで) からの宇宙線除去を自動化できます。そしてデータ分析フローを自動化し、信頼できる結果を生成できます。

ラマンイメージの空間分解能

ラマンマイクロスコープの空間分解能はいくつかの要素に依存して決まります。

• レーザーのスポットサイズ
対物レンズの開口数とレーザー波長で決まります。開口数が大きく、波長が短いほど、スポットサイズが小さくなります。

• サンプリングポイントの間隔
サンプルステージで決まります。レニショーの MS30 高速エンコーダ式ステージは広い移動範囲を持ちつつも、最小 50nm ステップでの移動が可能です。このステップ単位は、最も小さい回折限界レーザースポットサイズよりも小さい単位です。

• 分光器に搭載されている光学部品の倍率と CCD ピクセルのサイズ
究極的には、光が持つ波長に制限されます。

マイクロスコープの対物レンズの回折限界分解能

アッベ回折限界のスポットサイズの計算式と、対物レンズと光の波長に対する理論上の方位分解能の限界。

ラマン分光の概要

ラマン分光が初めての方は、ラマン分析の基礎からご覧ください。

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表面増強ラマン散乱 (SERS)

表面増強ラマン散乱 (SERS) では、SERS 基板に吸着した分子からのラマン散乱光を増幅することができます。SERS 基板は金属の粗面やコロイド金属粒子を使用できます。信号の増幅度合いは 10 億倍になることもあり、SERS を用いることで極めて濃度が低い物質でも検出できます。バイオセンシングや法医学的分析などで有効です。

金属の SERS 基板近くの分子からのラマン散乱の増幅には、以下のふたつの効果が要因です。

• 金属による、入射レーザーとラマン散乱光の電場の増幅

• 金属による、吸収分子内の電荷の分布の変化

チップ増強ラマン散乱 (TERS)

チップ増強ラマン散乱 (TERS) は SERS の一種です。金属でコーティングした探針 (チップ) を使い、ラマン信号を増幅します。数 nm の探針内の分子からのラマン信号を大きく増幅できる技術で、ナノレベルの粒子に適用可能です。比較ですが、従来のラマン散乱の回折限界空間分解能は >0.2µm です。

TERS では超高分解能なケミカルイメージングが可能です。イメージングは、探針がある場合とない場合のサンプルからのスペクトルを比較して行います。TERS の探針は走査型プローブ顕微鏡 (SPM) または 原子間力顕微鏡 (AFM) に取り付けるのが一般的です。inVia ラマンマイクロスコープでは、チップ増強ラマン分光測定を含む、in-situ SPM/AFM 測定を実施できます。

レニショーのラマンと SPM/AFM の複合システムには、TERS オプションをご用意しています。

Far-Field 測定と TERS 測定から取得したグラフェンフレークの AFM イメージとラマンスペクトル

グラフェン片の AFM イメージと、遠視野測定と TERS 測定で取得したラマンスペクトル。TERS で取得したラマンスペクトルからは、単層グラフェンのわずかな領域を明確に描写しています。遠視野測定のラマンスペクトルのほうが 2D バンドが広く、近接する二重層グラフェンからの影響が見られます。

ラマン分光とは

ラマン分析、フォトルミネッセンス (PL) についてご興味をお持ちでしたら、当社までお問い合わせください。高速ラマンイメージング、データ解析などについてお答えいたします。

ラマン分光の概要